top of page
なぜ 水の流れに合わせて 人々は家を建て
田をこしらえて 稲を育て
そうして草木が眠る冬の 長い長い冬の始まりに
木を切って火を焚いて 皮を剥ぎ
雪にすっぽり覆われた家屋の中で
こんなにも冷たい水の中 誇り高き歌を唄いながら
こんなにも手をかけて 紙を漉いていたのだろう
日本にはそんな紙漉きの村が、紙漉きびとがもっと身近にいて、
もっと身近にその紙を使った頃があったことを
今は名もなき紙の産地が あまたとあったことを
どれほどの風や土が覚えているだろう
たくさんのたくさんの 溢れるほどの紙や画面を目の前にして
今を走るたくさんの言葉たちも 競って駆け抜けていく
なん千年も変わらない、
山の木の皮を剥いで繊維を取り出し、
生み出すことができるかつての国の紙は
ゆっくりとゆっくりと駆け抜けることなく ずっとここにいて
変わらぬものを伝えている
真っ白な まっさらな紙を 惜しむことなく使える ひとときの不思議な時代
一枚の白い紙は たかが紙か されど紙か
一本の木の繊維に、人の手がかけた途方もない時を
忘れることなく この風土は まだ少し覚えている
昔歩いた人の足跡を 降り積もった雪の中辿って
その先に待っているものに遇いに行く
bottom of page